国際自己申告非行調査ISRD(International Self-Report Delinquency Study)は、非行経験に関する自己申告調査を世界各国の中学生に対して実施し、その結果を比較しようとする国際プロジェクトです。自己申告調査は、犯罪加害者・被害者の特徴やその背景の解明、学問的な理論検証に強みを持つと言われています。さらに、国際比較によって、日本と諸外国との類似点や相違点を引き出すこともできます。ISRDプロジェクトは、青少年の非行防止対策を考える上で、有用な基礎的知見を提供します。
現在、犯罪学研究センターの「ISRD」ユニットが日本代表として参加しています。
【参照1】International Self-Report Delinquency Study Official Website
少年非行は、万引きや大麻等の薬物使用といった、被害が判明しにくい犯罪が大部分を占めています。他方で、少年の犯罪被害の多くは家族や友人など身近な人からの被害であり、被害少年は警察に通報しない傾向にあります。このような理由から、少年非行の実態は警察統計等の公式統計には反映されにくいと言われます。この問題の解決のため、さらに、非行原因のより深い理解のために開発・導入された調査が、自己申告非行調査です。
自己申告非行調査は欧米を中心に広く一般的に用いられてきましたが、国ごとに犯罪・非行の定義が異なっていたり、サンプルや質問項目が異なっていたりしたために、個々の調査結果を適切に国際比較することは困難でした。そんな中、複数の国々が同時に参加する形で自己申告調査を実施しようとする国際プロジェクト・ISRDがスタートしました。
ISRDの目的は次の2つです。
ISRDはこれまでに3回実施されています。第1回(ISRD1)は1992年〜1993年に13ヶ国で、第2回(ISRD2)は2005年〜2007年に31ヶ国で、第3回(ISRD3)は2012年以降に行われ、約40ヶ国が参加しています。第4回(ISRD4)はまもなく開始される予定です。
参加国で実施する調査は、原則として、ISRDのプロトコル(決められた調査手順)に従います。主な実施手順と調査内容は以下の通りです(ISRD3を例に紹介します)。
調査対象者は人口規模の多い都市部(各国で2都市以上を選定)に在住する中学校1~3年生(1都市あたり各学年300人で計900人)です。選定された都市に所在する中学校のクラスを無作為に抽出して、対象者を確保します。そして、研究メンバーが分担して学校を直接訪問し、クラス単位で調査を実施します。具体的には、生徒一人ずつにタブレットPCを配布し、その中に組み込まれた調査票(アンケート)に回答してもらいます。
調査内容(質問項目)には、犯罪・非行の加害体験および被害の有無、家族・学校・友人との関係、罪や恥の意識、警察に対する信頼、基本属性などが含まれます。
ちなみに次回のISRD4では、調査対象を中学校3年生~高校3年生に引き上げることが決定しています。また、新たな試みとして、学校のクラスを基本とした標本調査とは別に、インターネットを使った調査(全国規模のWEB調査)を実施することが予定されています。
ISRD運営委員会の責任者Ineke Marshall氏(Northeastern University)が上田光明(当研究センター嘱託研究員)にISRDへの参加を依頼したのを契機として、2017年9月にISRD-JAPANプロジェクトが発足しました。
【参照】「犯罪社会学」ユニット | 「意識調査」ユニット
その後、プロジェクトのメンバーが集まって、研究会を複数回実施しました。研究会では、ISRD3の調査票(英語版)の翻訳に着手し、 2018年末に日本語版を完成させました。さらに調査票の有効性を確かめるため、愛知県と大阪府の公立中学校の協力を得て、プレ調査を実施しました(それぞれ2018年12月と2019年3月)。
プレ調査を受けて、ISRD3の本調査は2019年12月から2020年2月にかけて、近畿地方のZ市内の中学校に通学する生徒を対象に実施されました。実施までの経緯については下記論文にまとめられています。
上田光明・相澤育郎・大塚英理子 2020「国際自己申告非行調査 (International Self-Report Deliquency Study: ISRD)の日本における展開」『罪と罰』57巻3号60~72頁)
相良翔・都島梨紗・森久智江 2021「国際自己申告非行(ISRD)調査日本版の実査とその課題」『罪と罰』58巻3号105~118頁)
また、日本犯罪社会学会第47回大会(2020年)において、テーマセッション「国際自己申告非行(ISRD)調査日本版の現状と課題」を企画・実施しました(コーディネーター:作田、報告者:森久・相良・都島・齋藤・大江)。
2020年末には研究報告書を発行しました。詳細はPDFファイルを参照ください。
【参照】『国際自己申告非行調査(ISRD)研究報告書――2019年度実施調査の概要と基礎的分析――』
2021年5月には、追加のレポート(ワーキングペーパーシリーズ1)を発行しました。 詳細はPDFファイルを参照ください。
【参照】『日常生活ならびにセルフコントロールと非行との関連(国際自己申告非行調査(ISRD)ワーキングペーパーシリーズ1)』
2021年には、日本犯罪社会学会第48回大会において、テーマセッション「国際自己申告非行調査(ISRD)を通して見る日本の少年非行」(コーディネーター:竹中、報告者:齋藤・大江・竹中・相澤・我藤)を、Asian Criminological Society 第12回大会において、テーマセッション "First Results of the International Self-Report Delinquency Study (ISRD3) in Japan"(コーディネーター:津島、報告者:岡邊・竹中・大江・相良・津島)を、それぞれ企画・実施しました。
2022年3月にレポートを2点発行しました。詳細はPDFファイルを参照ください。
【参照】〈国際自己申告非行調査(ISRD) ワーキングペーパーシリーズ 3〉 Development of a delinquency scale based on ISRD3 in Japan
次回ISRD4の日本での実施に向けての準備が、現在進められています。調査票の翻訳作業は完了しており、2023年2月にはプレ調査を行いました。2023年度中には本調査を実施する計画です。(※現在、調査遂行のための協力先の確保に取り組んでいます。)
ISRDは毎年、欧州犯罪学会(European Society of Criminology)の年次大会に合わせてワークショップを実施しています。2019年9月17日に開催されたISRDワークショップ(ベルギー・ゲント大学にて)には、津島昌弘(当研究センター研究部門長、犯罪社会学・意識調査ユニット長)と森久智江・相良翔・都島梨紗(いずれも当研究センター嘱託研究員)が日本代表として参加しました。そこでは、ISRD3の実施を通じて得られた知見や課題、2021年1月から開始されるISRD4の実施要領に関する情報を収集するとともに、ISRD運営委員会のメンバーや参加国代表との交流を深めました。
2018.08.22 犯罪社会学・意識調査ユニット長 インタビュー SEE MORE
2019.03.20 第8回「CrimRC(犯罪学研究センター)公開研究会」を開催 SEE MORE
2020.02.04 第16回「CrimRC(犯罪学研究センター)公開研究会」を開催 SEE MORE
2020.02.07 ISRD-JAPAN アンケートにつきまして SEE MORE
2021.02.19 『国際自己申告非行調査(ISRD)研究報告書』を発行 SEE MORE
2022.11.14 第22回ヨーロッパ犯罪学会での発表内容を報告 SEE MORE
2022.12.09 ISRDユニットが国際交流研究会を開催 SEE MORE